鳥取地方裁判所 昭和29年(モ)38号 判決
申請人 興国人絹パルプ株式会社
被申請人 中野茂
一、主 文
本件につき当裁判所が昭和二十九年三月二十七日なした仮処分決定はこれを認可する。
訴訟費用は被申請人の負担とする。
二、事 実
申請代理人は主文と同旨の判決を求め、その申請理由として別紙<省略>表示の区域を包含する鳥取県東伯郡三朝町大字福山字カンナガ谷二百四十五番の一原野七町八反二畝十歩(但し公簿上の表示)の土地はもと竹田村大字福山部落の所有で部落民の入会地であつたところ、公有林野整理統一のため大正九年頃竹田村の所有となり、竹田村は縁故使用地台帳記載のとおり福山部落民申請外岩田文吉外十三名に対し、縁故使用地として共同使用することを許容し、爾来福山部落民はこの土地を使用収益して来た。ところが同部落民は林道開発と電燈施設を実現するため、昭和二十五年二月二十八日前記土地及び外二十四筆の土地上の松立木を申請外鳥取県奥地開発企業組合に売渡し、同組合は更に同年九月二日これを申請外大森幸夫に売渡し、同人は次で同月十日これを申請会社に売渡したものであり、その売渡の都度別紙表示の区域の松立木を除外するが如き協定をしたことはない。そして申請会社は右松立木を買受けた際直にその所有権を公示するため、公示札及び標柱等を以て明認方法を施し、爾来これを継続してこの松立木を所有し管理して来たのである。然るところ昭和二十八年十一月頃より申請外岩本良蔵は福山部落民が右奥地開発企業組合に対し、前記のとおり松立木を売渡す際別紙表示の区域の松立木は同人の単独所有物として残すため売買の対象から除外したと主張し、そして被申請人は昭和二十九年二月十六日右岩本良蔵から右除外された松立木を買受けたと主張し、申請会社を相手取り当庁に対し、昭和二十九年(ワ)第六三号所有権確認等請求訴訟を提起し、且つ申請会社が該地域に立入り地上樹木を伐採並に搬出することを禁止する旨の仮処分申請をし、その旨の仮処分決定を得てこれを執行した。そこで申請会社は右本案訴訟において抗争すると共に他方被申請人が該土地に立入り、地上松立木を伐採及び搬出すること、その他松材の現状を変更する一切の行為を禁止することを求める本案訴訟を提起しようとしてその準備中であるが、被申請人は恣に該土地に立入り、地上松立木を伐採し且つこれを搬出しようとしており、本案判決あるまで放置すれば回復すべからざる損害を蒙る虞があるので、申請会社は被申請人を相手取り当庁に対し被申請人は前記土地に立入り、地上松立木の伐採搬出その他松材の現状を変更する一切の行為をしてはならない。申請人の委任する当庁所属執行吏は前記の目的を達するため適当な方法を執らねばならない。被申請人が執行吏の右処置に違反したときは執行吏はこれを原状に復し、その他適当な方法を執ることができる旨の仮処分申請をし、当庁昭和二十九年(ヨ)第一八号事件において昭和二十九年三月二十七日その旨の仮処分決定がなされたが、この決定は相当であるからこれを認可する旨の判決を求めると陳述し、被申請人の主張に対し本件は同一物件に対し二個の相反する仮処分が存在することにはならないと述べた。<立証省略>
被申請代理人は申請会社より被申請人に対する当庁昭和二十九年(ヨ)第一八号仮処分申請事件につき、当庁が昭和二十九年三月二十七日なした仮処分決定はこれを取消す。訴訟費用は申請人の負担とするとの判決並に仮執行の宣言を求め、答弁及び異議理由として申請会社主張事実中申請会社がその主張のような仮処分申請をし、当庁において昭和二十九年三月二十七日その主張のような仮処分決定があつたことはいずれも認める。しかしながらこれよりさき被申請人は昭和二十九年三月三日右仮処分物件と同一物件につき申請会社が秘かに侵入して、その樹木を伐採していることを発見したので、これが禁止を求めるため該樹木の所有権に基いて申請会社を相手取り当庁に対して申請人は本件土地に立入り、地上樹木の伐採並に搬出をしてはならない旨の仮処分申請をし、当庁昭和二十九年(ヨ)第一一号事件においてその旨の仮処分決定を受け、同月四日その執行をしたのである。右被申請人が得た仮処分決定は申請会社が本件土地に生立する樹木伐採のため立入ることを禁じたものであるが、その趣旨は被申請人の樹木所有権を争う、申請会社の立入り及伐採搬出を禁じて被申請人に立入り伐採搬出せしめることを包含していることは疑う余地がない。従つてこのような仮処分のあつた同一物件に対してその後反対に申請会社の申請による立入り禁止の仮処分は許容せらるべきではない。若しこれを許されるとすれば相容れない二個の仮処分が同一物件の上に対立するのみならず、第一次の仮処分の趣旨は全く没却せられるのである、よつて前記第二次の仮処分は不適法といわなければならない。従つて第二次の仮処分である本件仮処分決定は当然取消さるべきであると述べた。<立証省略>
三、理 由
申請会社がその主張の如き理由の下に被申請人に対し仮処分申請をし、当庁昭和二十九年(ヨ)第一八号事件において、同年三月二十七日申請会社主張の如き仮処分決定がなされたことはいずれも当事者間に争がない。そして申請会社主張の本件仮処分申請の原因事実は甲第一乃至第四号証の各記載並に本件口頭弁論の全趣旨を綜合して、一応その疏明ありと認める被申請人は本件地上の松立木は被申請人の所有に属するところ、申請会社が秘かに侵入してその樹木を伐採していることを発見したので、これが禁止を求めるため昭和二十九年三月三日該樹木の所有権に基いて申請会社を相手取り、当庁に対して申請会社は前記土地に立入り、地上樹木の伐採並に搬出をしてはならない旨の仮処分申請をし、当庁昭和二十九年(ヨ)第一一号事件においてその旨の仮処分決定があり、同月四日その執行をしたものであつて、右被申請人が得た仮処分決定は申請会社が前記土地に生立する樹木伐採のため立入ることを禁じたものであるが、その趣旨は被申請人の樹木所有権を争う申請会社の立入り、及び伐採搬出を禁じて被申請人をして立入り伐採搬出せしめることを包含していることは疑う余地がない。従つてこのような仮処分のあつた同一物件に対して、その後反対に申請会社の申請による立入禁止の仮処分は許容せらるべきでない。若しこれを許されるとすれば相容れない二個の仮処分が同一物件の上に対立するのみならず、第一次の仮処分の趣旨は全く没却せられる旨主張するから考えるに被申請人主張のように本件物件について、昭和二十九年三月三日当庁においてその主張のような仮処分決定のあつたことは当事者間に争のないところであるが、被申請人の申請に基いてなされた前記第一の仮処分をみるに、右仮処分は本件物件に対して被申請人の主張する権利の執行を保全するため申請会社をして前記土地に立入り地上立木の伐採、搬出をすることを禁止し現状の維持をはかつたに過ぎないものであつて、進んで被申請人をしてその主張する権利関係について仮の地位を与え、被申請人の右立木伐採を許容したものでないことは成立に争のない乙第一、二号証の各記載に徴して明らかである。従つて申請会社の本件仮処分申請を容れ被申請人の本件物件に対する立入り及び伐採搬出することを禁止するも、前記第一の仮処分と内容的に牴触するものではなくその執行にも何等の支障もないのである。たとえ右両者の仮処分のため当事者双方がいずれも本件立木の伐採搬出をなし得ない結果を来すともそれは寧ろ保全手続である。仮処分の本来の趣旨に合致するものというの外はない(被申請人の引用する高裁判例は当裁判所の従い得ないところである。右判例に対する兼子一氏批評東京大学判例研究会発行判例研究第二巻第五号参照)してみれば申請会社が本件物件に対する所有権を主張し、その権利の保全のため被申請人に対して本件土地に立入り松立木の伐採、搬出等をなすことの禁止を求める本件仮処分申請は相当であるから当裁判所がさきになした仮処分決定は相当としてこれを認可することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋文恵)